相続税の税務調査実施率の高さ
過去3年間の国税庁が公表している相続税,法人税,所得税の税務調査実施率を比べると、相続税の調査実施率は11.2%,法人税は3.1%,所得税は0.31%となっており、相続税の調査実施率は大幅に高いです。
何故、調査率が高いのか
遺産状況に最も詳しい被相続人が存在せず、相続人が遺産状況を調べるので相続財産に漏れが生じ易いことや専門家に相談することなく実施した安易な贈与や名義預金などが税務署に把握され易いことが考えられます。
相続税の税務調査対策
被相続人の資産状況をどの程度税務署が把握しているのか、相続税の申告書が提出された場合に税務署が実施することなどをふまえ、相続税の税務調査対策をご紹介します。
【相続税の税務調査】
毎年11月と12月に法人税,所得税,相続税に関する税務調査概要が国税庁から公表されます。過去3年間の公表資料を基に、相続税の税務調査の高い実施率をご紹介します。
1)過去3年間の税務調査実績
① 相続税
相続税の税務調査は申告書提出3年後に実施されることが多く、申告書提出者数は3年前(平成30年分の調査であれば平成27年分の申告書提出者数)のものを対象にしています。過去3年間の相続税の申告書提出者数は319,000人年間平均106,333人です。
過去3年間の相続税の税務調査実施件数は35,674件年間平均11,891件となっており、税務調査実施率は11.2%です。その内申告漏れ件数の年間平均は10,092件となっており、申告漏れ件数割合は84.9%です。
② 法人税
法人税の申告書提出法人の3年間平均は2,924,666社、税務調査実施件数の3年間平均は91,000件、税務調査実施率は3.1%であり、その内申告漏れ件数は68,000件となっており、申告漏れ件数割合は74.7%です。
③ 所得税
所得税の申告書提出者の3年間平均は22,080,000者、税務調査実施件数の3年間平均は68,738件、税務調査実施率は0.31%であり、その内申告漏れ件数は57,264件となっており、申告漏れ件数割合は83.3%です。
申告に必要な添付書類の提出漏れなどを含む簡易な接触件数の3年間平均は486,000件、簡易な接触割合は2.2%であり、その内申告漏れ件数は282,957件申告漏れ件数割合は58.2%です。
④ 比較
税務調査実施率は、相続税11.2%,法人税3.1%,所得税0.31%、申告漏れ件数割合は、相続税84.9%,法人税74.7%,所得税83.3%となっています。相続税は税務署の視点からすると調査しがいのある税目となっていることでしょう。
2)相続税の税務調査実施率が高い背景
① 一番詳しい人が不在
相続税の申告は資料収集に始まり資料収集に終わると言われるくらい相続に関する資料集めは大変です。転勤の多い被相続人の場合、居住先でそれぞれ利便性の高い金融機関に口座を開設しているなど、被相続人名義の預貯金口座を特定することも一苦労です。証券会社の特定口座や証券投資信託,農協の建物共済保険,銀行の貸金庫,自宅など以外の不動産,海外資産などなど、資産全体を把握している被相続人がいないので、遺産の全てを漏れなく把握することは、そもそも難しいことです。
② 税理士に相談している人は少なくこのくらいいいだろう
当社が相続税申告を受託する場合に相続人にお勧めするのは、被相続人名義の預貯金口座の過去7年分の入出金履歴の確認です。親族間での大胆な資金移動(贈与)を見つけることは珍しくありません。税理士などの専門家に相談しながら生前贈与などの相続対策を取る人は少なく、自己流の解釈で相続対策をしている人が多く、税務署が預貯金取引履歴を確認すれば疑義を抱かれ易いと感じることが多々あります。
3)税務署の実施事項
相続が開始された場合、税務署はどのようにしてその情報を収集し、調査するのでしょうか?相続登記に限らず不動産登記がされた場合、生命保険金が支給された場合の通知や支払調書などにより税務署は被相続人の死亡事実を把握します。相続税の申告書が提出された場合と提出されなかった場合の税務署の実施事項です。
① 被相続人及びその親族の預貯金履歴調査
相続税の申告書が提出された場合、相続開始前5年以内の被相続人及びその親族の預貯金口座の取引履歴は必ず調査されます。被相続人が多額の現金を引き出した日に親族名義の口座に入金した場合には、税務署の知るところとなります。
② 生前の確定申告などストックされている被相続人に関する情報
被相続人の過去の所得税,相続税,贈与税の申告状況、給与所得の源泉徴収票,不動産登記状況,生命保険金の受取状況などの法定調書状況により、税務署は被相続人の生前の収入や資産の概況を掴んでおり、相続税申告の可能性の高い相続人には「相続税についてのお尋ね」を送付しています。