相続手続きの流れと必要書類を徹底解説
相続は、誰にとっても何度も経験するものではなく、多くの方にとっては「人生で一度あるかないか」の出来事です。しかも、その相続は家族が亡くなった直後という、精神的にも非常に負担が大きいタイミングで始まります。葬儀の準備や親族への連絡に追われる中で、市区町村への死亡届の提出、年金や健康保険の手続き、相続人や相続財産の確認など、さまざまな相続手続きが同時進行で発生します。何から始めればよいか分からないまま時間だけが過ぎてしまうと、気付いたときには期限が迫り、慌てて対応せざるを得ない状況になりかねません。なお、これ以降でご説明する相続手続きの流れは、2024年時点の法令等に基づく一般的なポイントであり、遺産の種類や家族構成に応じて必要な書類や手順が異なる場合もあります。
特に、不動産や預貯金、株式、有価証券、生命保険などの財産を一定以上お持ちの方や、二つ以上の不動産を所有している方は、相続税の申告が必要になる可能性が高くなります。相続税の申告・納付には原則として「相続開始を知った日から10か月以内」という期限があり、遺産分割がまとまらないまま時間が経つと、特例の適用が受けられなかったり、余計な税負担が発生したりするリスクもあります。本記事では、相続手続きの全体の流れや必要書類を、初めて相続を経験する方にも分かりやすいように整理し、税理士法人ヤマトの視点から実務上の注意点と進め方を徹底解説します。下記で相続手続きの主なステップを図にできる形で整理していきますので、以下の説明を読み進める時は、ご自身のケースに当てはめながら一つ一つ確認していくことをおすすめします。
相続手続きの全体像を理解する
相続開始のタイミングと最初のステップ
民法上、相続は「人が死亡したとき」に開始すると定められています。つまり、被相続人が亡くなった瞬間から、相続人の権利義務や相続財産の承継が法的にはスタートしているということです。
ただし、現実の手続きは、まず死亡届の提出から始まります。死亡届は、死亡の事実を知った日から7日以内に、市区町村役場へ提出する必要があります。通常は葬儀社がサポートしてくれるケースも多いですが、戸籍事務を扱う役所の窓口で手続きが行われ、死亡の記載が戸籍に反映されます。
その後、健康保険や介護保険、年金給付の停止手続き、勤務先への報告、生命保険会社への連絡など、いわゆる「死亡後の初期手続き」が続きます。これらは相続の手続きと密接に関わる部分もあり、年金や保険金、弔慰金、死亡退職金などが相続財産やみなし相続財産として扱われる場合もあります。そのため、単なる事務作業と考えず、「後の相続税申告や遺産分割にも関わる重要な情報」として整理しておくことが大切です。
できるだけ一か所にまとめて保管しておくと、その後の作業がぐっと楽になります。

相続人と相続財産を把握する重要性
相続手続きの流れを整理するとき、「誰が相続人なのか」「どの財産が相続の対象なのか」を正しく把握することが、すべての出発点になります。相続人を確定するためには、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍、除籍謄本、改製原戸籍などを、本籍地の市区町村役場から収集する必要があります。
法定相続人の範囲は民法で細かく定められており、配偶者は常に相続人となり、その上で子、直系尊属(父母・祖父母)、兄弟姉妹という順位で相続人が決まります。戸籍を集めてみて初めて、再婚や養子縁組、認知など、家族でも知らなかった事実が判明することも少なくありません。
同時に、相続財産の内容も洗い出さなければなりません。不動産、自宅の土地建物、貸地・貸家、預貯金、有価証券、投資信託、生命保険金、退職金、事業用資産などのプラスの財産だけでなく、借金や未払税金、保証債務といったマイナスの財産も含めて調査する必要があります。財産を把握せずに遺産分割や相続放棄を判断してしまうと、「後から多額の借金が見つかった」「思っていたよりも資産が多く相続税が発生した」といったトラブルにつながります。
早い段階で相続人と相続財産の全体像を見える化しておくことが、トラブル防止の第一歩です。
相続人の確定と戸籍収集の実務
戸籍を使った法定相続人の確認方法
法定相続人を確定するためには、被相続人の出生から死亡までの戸籍をすべて確認する必要があります。現在戸籍だけでは生まれてからの全履歴が分からないことも多く、改製原戸籍や除籍謄本を含めて請求しなければなりません。
戸籍の収集は、本籍地が複数回移動している場合や、転籍を繰り返している場合などには特に手間がかかります。市区町村役場の窓口で請求するほか、郵送で取り寄せることもできますが、その場合は請求書、本人確認書類の写し、定額小為替などの準備が必要になります。
戸籍を読み解くことで、被相続人に配偶者がいるか、子どもが何人いるか、すでに亡くなっている子がいる場合は代襲相続が発生するかどうかなどを確認します。直系尊属が相続人になるケースや、兄弟姉妹が相続人になるケースでは、祖父母や兄弟姉妹の戸籍も必要になる場合があります。戸籍の記載は専門用語も多く、なじみのない方にとっては非常に分かりづらいものです。相続人を誤って確定すると、遺産分割協議が無効となるおそれがあるため、戸籍の読み解きに不安がある場合は専門家に相談した方が安心です。
見落としやすいケースと注意点
相続人の確定で特に注意が必要なのは、婚姻歴が複数ある場合、認知した子がいる場合、養子縁組をしている場合などです。戸籍を丁寧に確認しないまま遺産分割協議を進めてしまうと、後から別の相続人が現れ、「自分も相続人である」と主張されるケースがあります。
このような場合、すでに作成した遺産分割協議書が無効と判断される可能性があり、改めて協議をやり直す必要が出てきます。時間的な負担だけでなく、すでに名義変更を終えている不動産や預貯金の扱いが問題となり、深刻なトラブルに発展することもあります。
特に兄弟姉妹が相続人になるケースや、親族関係が複雑な場合は、戸籍の確認を甘く見ないことが大切です。
遺言書の有無とその取り扱い
遺言書の種類と特徴
遺言書の有無は非常に大きな意味を持ちます。遺言書の種類には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つがあり、それぞれ作成方法や保管方法、開封の手続きが異なります。
公正証書遺言は公証人役場で作成し、公証人が関与するため偽造や変造のリスクが低く、家庭裁判所での検認も不要であるなど、実務上もっとも扱いやすい形式といえます。一方、自筆証書遺言は本人が自署で作成するもので、費用がかからないというメリットがある一方で、方式不備による無効リスクや、紛失・改ざんのリスクがある点に注意が必要です。
近年は、自筆証書遺言を法務局で保管する制度も始まりました。この制度を利用している場合、遺言書は法務局に厳重に保管されるため、紛失や改ざんのリスクが低く、家庭裁判所の検認も不要となります。秘密証書遺言は利用件数こそ多くありませんが、内容を秘密にしたまま遺言書を公証人に預けることができる制度です。それぞれの遺言書には長所と短所があり、どれが最適かは被相続人の事情や家族構成によって異なります。
遺言書が見つかったときの注意点
自宅の金庫や貸金庫、机の引き出しなどから遺言書が見つかった場合、勝手に開封してしまうのは避けるべきです。自筆証書遺言を家庭裁判所の検認前に開封したとしても、それだけで遺言書が無効になるわけではありませんが、法律上は過料の対象となる可能性があります。
また、「本当に本人が書いたものか」「内容が最新の意思を反映しているか」といった点を確認する必要もあります。複数の遺言書が見つかった場合、どれが有効かは作成日や内容によって判断されますので、慎重な取り扱いが求められます。
内容に不安がある場合は、生前のうちから専門家に相談しておくことをおすすめします。
相続財産の調査と一覧化のポイント
プラスの財産とマイナスの財産
相続財産の調査では、プラスの財産とマイナスの財産を漏れなく洗い出すことが重要です。プラスの財産には、不動産、預貯金、有価証券、投資信託、生命保険金、退職金、事業用資産、貴金属や美術品などが含まれます。マイナスの財産としては、借入金、買掛金、未払の税金、連帯保証債務などが挙げられます。財産の調査は、通帳や証券会社の取引報告書、保険証券、固定資産税の納税通知書など、さまざまな書類を手がかりに進めていきます。こうした書類の中には評価や名義を確認するための証明書類も多く含まれるため、どの時点でどの証明書が必要になるかを意識して整理しておくとよいでしょう。
特に不動産については、登記簿謄本や固定資産税評価証明書を取得し、所在地や地目、持分の割合を確認する必要があります。自宅として利用している建物や土地と、貸付用の不動産では取り扱いや評価方法が異なることもあり、相続税評価額を正確に把握しておくことが重要です。都市部の土地は路線価が高く、思っている以上に評価額が大きくなることも珍しくありません。相続税の基礎控除額を超えるかどうかは、この不動産評価が大きなカギを握ります。
財産目録の作成と情報整理
調査した財産は、「財産目録」として一覧にまとめると、その後の遺産分割協議や相続税申告が格段に進めやすくなります。財産目録には、財産の種類、所在、金額や評価額、名義人、備考などを整理して記載します。例えば、不動産であれば所在地、地番、家屋番号、種類、構造、固定資産税評価額、持分などを整理し、預貯金であれば金融機関名、支店名、口座番号、残高、解約の手続き方法などを整理します。
誰が見ても分かりやすい形で整理しておくことで、「知らない財産が後から出てきた」という疑念を減らすことにもつながります。

遺産分割協議と相続放棄・限定承認
遺産分割協議を進めるステップ
相続人と相続財産の全体像が見えてきたら、次は遺産分割協議に進みます。遺産分割協議は、すべての相続人が参加し、誰がどの財産をどのような割合で取得するかを話し合う場です。
法定相続分はあくまで基準であり、相続人全員の合意があれば、必ずしも民法どおりの割合で分ける必要はありません。ただし、特定の相続人だけが大きく得をしている、他の相続人の遺留分を侵害しているなどの状況があると、不満や紛争の原因となるため、慎重な配慮が必要です。
話し合いがまとまったら、その内容を遺産分割協議書として書面にまとめます。協議書には、被相続人の氏名・死亡日、相続人全員の氏名と住所、分割の対象となる財産の内容、誰が何を取得するかを明確に記載し、全員が自署押印します。金融機関での預貯金解約や名義変更、不動産の所有権移転登記などの手続きでは、この遺産分割協議書の提出が求められることが多いため、実務上も非常に重要な書類です。相続は一人分の手続きであっても関係者全員の権利に直結するため、必ず「あとで困らないか」という視点を持って進めることが大切です。
相続放棄・限定承認を検討すべき場面
相続財産を調査した結果、借金が多い場合や、プラスとマイナスのバランスがはっきりしない場合には、相続放棄や限定承認という制度を検討する必要があります。相続放棄は、プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がないという選択肢であり、家庭裁判所への申述が必要です。相続開始を知ってから原則3か月以内に手続きを行う必要があるため、迷っている間に期限を過ぎてしまうと、単純承認とみなされてしまうリスクがあります。
限定承認は、相続人全員の合意が必要な制度で、相続によって得た財産の範囲内で債務を弁済するという考え方に立っています。プラスの財産もあるが、多額の借金や保証債務があり、どこまで責任を負うべきか悩ましいケースで活用されます。
ただし、限定承認は手続きが複雑で、財産目録の作成や裁判所への報告など、相応の手間と専門知識が必要です。そのため、検討する際は早い段階で専門家に相談することが現実的です。どの選択肢がご家族にとって最善かは、遺産の内容や相続人の生活状況に応じて変わるため、「自分たちだけで判断するしかない」と考える必要はありません。
相続放棄や限定承認には期限があるため、まずは状況を整理し、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
相続税申告と専門家への相談タイミング
相続税申告までのスケジュール感
相続税の申告が必要かどうかは、相続財産の総額と、基礎控除額、各種特例の適用状況によって決まります。基礎控除額は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されますが、不動産の評価額が高い場合や、預貯金や有価証券が多い場合、生命保険金や死亡退職金が多額に支給される場合などは、思っている以上に相続税の対象となるケースが多くあります。相続税の申告期限は「相続開始を知った日の翌日から10か月以内」であり、その間に財産調査、評価、遺産分割協議、必要書類の収集など、数多くの段階を経なければなりません。
特に、不動産が複数ある場合や、事業用資産、非上場株式などが含まれている場合は、評価作業だけでも相当な時間が必要です。さらに、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減、生命保険金の非課税枠など、さまざまな特例を適用するかどうかの検討も必要となります。これらの特例は、適用要件を満たしていても、期限内に申告をしないと使えないものがほとんどです。
「時間がなくて間に合わなかった」という理由で数百万円単位の税額差が生じることもあり得るため、早い段階でスケジュールを意識して動くことが非常に重要です。どの手続きも自分でできるなら自分で進めても構いませんが、負担が大きいと感じる部分は専門家のサポートを受けることも十分可能です。
専門家に相談するメリット
相続手続きは、ご自身だけで進めることも不可能ではありませんが、相続税申告が絡むケースや、相続人・財産の状況が複雑なケースでは、専門家に相談した方が結果的に時間も費用も抑えられることが多いです。税理士は、相続税の計算や各種特例の適用可否の判断、申告書の作成だけでなく、財産目録の整理や遺産分割の方向性に関するアドバイスなども行います。司法書士は不動産の名義変更登記、弁護士は遺産分割協議で紛争になった場合の交渉や調停・訴訟対応を担います。
不動産評価や特例の適用によって結果が大きく変わるため、まずは概算でもよいので専門家に相談し、全体像をつかんでおくと安心です。
早めの相談が、余計な税金とトラブルの両方を防ぐことにつながります。

まとめ|迷ったら早めに専門家へ相談を
相続手続きは、死亡届の提出から始まり、相続人の確定、相続財産の調査、遺言書の確認、遺産分割協議、相続放棄や限定承認の判断、相続税申告まで、多くのステップが連続して発生します。それぞれの場面で法律や税務の知識が求められ、必要書類も多岐にわたります。情報が錯綜する中で一つひとつの手続きを正確に行うのは、相続に慣れていない方にとって非常に大きな負担です。
だからこそ、すべてを一人で抱え込まず、早い段階で専門家に相談することが重要です。税理士法人ヤマトでは、相続人・財産の整理から遺産分割のアドバイス、相続税申告まで、一連の流れを一緒に整理しながら進めていきます。相続は、家族のこれまでの歩みを受け取り、次の世代へと引き継いでいく大切なプロセスです。手続きの複雑さに振り回されるのではなく、「きちんと整理し、正しく承継する」ためのパートナーとして、専門家の力を上手に活用していただければと思います。相続の過程で発生するさまざまな遺産の手続きや証明書の取得は、ご家族だけで抱え込む必要はなく、状況に応じて外部専門家の支援を受けることができます。
「これで合っているのか」「他にやるべきことはないか」と不安を抱えたまま進めるよりも、早めに相談して不安を一つずつ解消していく方が、結果的にご家族全員にとって良い形になります。
迷ったときは、どうぞ遠慮なく専門家を頼ってください。