相続税の申告が必要になりそうな方へ|手続きの流れと専門家に相談するタイミング
相続税の申告が必要になりそうだと感じたとき、多くの方はまず「税金がいくらになるのか」という点に目が向きます。特に、都市部に不動産や賃貸物件を所有していたり、預貯金・有価証券・自社株式などの資産を一定以上お持ちの富裕層〜中堅所得層の方にとって、相続は単なる「名義の書き換え」ではなく、家族や事業の将来に関わる重要なイベントです。家族の暮らし、事業の継続、次世代への承継など、さまざまなテーマが絡み合う一大イベントです。
しかも相続は、死亡直後から期限付きの手続きが次々に発生するという特徴があります。被相続人が亡くなった直後から、戸籍や残高証明書の取得、不動産の評価、遺言書や遺贈の内容確認、遺産の分け方の話し合い、各種の名義変更などを同時進行で進めなければなりません。気持ちの整理がつかない中で、多数の手続きを判断しなければならない負担は想像以上に大きくなりがちです。民法や税法上のルールに沿って適切に対応していく必要があります。
この記事では、相続税の申告が必要になりそうな方に向けて、手続きの全体像と注意する点、そして「いつ・誰に・何を相談するべきか」という判断軸を、税理士法人ヤマト所属の税理士の視点から分かりやすく解説します。早めに知っておくことで、余計なトラブルや税負担を避け、ご家族全員が納得できる形で遺産を承継するための準備につなげることができます。

相続税申告が必要かどうかの判断ポイント
基礎控除だけでは判断しきれない理由
相続税の申告が必要かどうかを調べると、まず出てくるのが「基礎控除のラインを超えているかどうか」という目安です。おおまかには「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を超えると申告が必要になると言われます。しかし、富裕層〜中堅所得層の相続では、以下のような要因がからみ、基礎控除の金額だけを見ても、本当に申告が必要かどうかを正確には判断できないケースが多くなります。
・都市部の自宅・賃貸不動産等の土地の評価が高くなりやすい
・複数の金融機関に預貯金や有価証券が分散している
・生命保険金・退職金など、相続税の対象となる金額が別枠で存在する
・生前贈与や名義預金など、加算対象となる取引がある可能性
表面上の「なんとなくの資産規模」だけでは、相続税の対象になるかどうかは判断しきれません。特に、自宅があるエリアの地価が高い方や賃貸不動産を複数所有している方、自社株式・非上場株式をお持ちの方は、早い段階で税理士に相談したほうが安全です。
都市部の土地や賃貸不動産があると、評価額が想定以上に高くなることが少なくありません。
相続税がかかるかどうかは、感覚ではなく試算ベースで把握することをおすすめします。
相続人の確定と戸籍の収集
出生から死亡までの連続した戸籍を確認する理由
相続手続きのスタートは、「誰が相続人なのか」を正式に確定することです。家族関係を頭の中で把握しているだけでは不十分で、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍を取得し、法的な相続人を確認する必要があります。この際、転籍や婚姻・離婚、養子縁組等があると、戸籍は複数の市区町村に分散していることも多く、「どこに請求したらよいか」を調べるところから始めるケースも少なくありません。
相続人の範囲は民法で定められており、法定相続人や法定相続分も同じく民法のルールに基づきます。第1順位は子(代襲相続あり)、第2順位は父母等の直系尊属、第3順位は兄弟姉妹(甥姪への代襲相続あり)といった各順位ごとの範囲を正しく理解しながら戸籍を確認していくことが重要です。
戸籍収集は一見地味な作業ですが、相続の土台をつくる最重要ステップです。迷ったら早めに専門家へご相談ください。
富裕層の相続で起こりがちな戸籍トラブル
資産規模が大きいご家庭ほど、戸籍に関するトラブルも顕在化しやすくなります。例えば、次のようなケースです。
・過去の婚姻関係から生まれた子が長年連絡を取っておらず、存在が忘れられていた
・認知した子どもが別戸籍にいるが、家族内で共有されていなかった
・養子縁組をしていたが、相続人本人でさえ戸籍の記載内容を正確に把握していなかった
これらは、相続財産が大きければ大きいほど、重大な紛争の火種になりやすいポイントです。早期に戸籍を確認し、相続人全員で情報を共有することが、後々のトラブル防止につながります。

相続財産の全体像を把握するプロセス
不動産・金融資産・保険・法人株式などの洗い出し
相続人の確定と並行して進めるべきなのが、相続財産の棚卸しを行うプロセスです。特に富裕層〜中堅所得層では、財産の種類が多岐にわたるため、以下のような視点で整理していくことが重要です。
・不動産:自宅、賃貸マンション、事業用物件、地方の土地など
・預貯金:複数の銀行・ネット銀行・信用金庫などに分散した口座
・有価証券:上場株式、投資信託、社債、外国証券など
・保険・年金:生命保険金、個人年金、企業年金、死亡退職金など
・事業・法人関連:自社株式、役員借入金・貸付金、事業用資産
・その他:貸金、未収入金、海外資産、貴金属や骨董品等
この段階では、「税額を細かく計算する」というよりも、相続税の対象となる可能性があるものを漏れなくリストアップし、全体像を把握することが目的です。特に不動産や預貯金については、最終的に名義変更を行うためにも、どの金融機関・どの法務局・どの自治体に手続きが必要か、早めに把握しておくとスムーズです。
通帳や証券会社の取引報告書、保険証券などを一覧化し、専門家と一緒に「相続財産の地図」を作るイメージで整理していくとスムーズです。
財産目録を作るメリット
洗い出した財産は、財産目録として一覧表にまとめます。財産目録には、一般的に次のような項目を記載します。
・資産の種類(不動産・預金・株式など)
・所在・金融機関名・証券会社名などの詳細
・評価額(相続税評価額の見込み)
・備考(貸付金の相手先、共有持分の有無など)
財産目録が整っていると、遺産分割協議や相続税申告だけでなく、将来の資産管理や二次相続のシミュレーションにも役立つ「長期的な判断の土台」になります。単なる「税務のための一覧」ではなく、家族全体の資産戦略を考えるための基盤にもなります。
遺言書・遺贈と遺産分割の難しさ
遺言書がある場合・ない場合で大きく異なる流れ
相続の現場で非常に重要なのが、遺言書の有無と内容です。公正証書遺言や、自筆証書遺言を法務局の保管制度に預けているケースなど、遺言書の形式や保管方法によって、その後の手続きの流れは大きく異なります。
・遺言書があり、内容が明確で法的に有効な場合 → 原則として遺言書の内容に沿って分割
・遺言書があるものの、一部の財産しか記載されていない場合 → 残りの財産については遺産分割協議が必要
・遺言書がない場合 → 相続人全員で話し合い、民法上の法定相続分や家族の事情を踏まえて分け方を決める
また、遺言書の中で特定の相続人以外の人(孫、親族以外の第三者、団体等)に財産を与える遺贈が定められていることもあります。遺贈がある場合は、その内容を踏まえて他の相続人の取り分や税負担の調整を行う必要があります。
相続発生後に初めて遺言書の存在や内容を知るケースも多いため、発見した際には勝手に開封したり破棄したりせず、専門家に見せたうえで慎重に扱うことをおすすめします。
不動産評価と遺産分割のバランス
富裕層の相続で最もインパクトが大きいのが不動産の評価です。不動産は、路線価や倍率を使った「相続税評価額」と、実際に売却したときの「時価」、そして家族が感じる「生活基盤としての価値」が、必ずしも一致しません。
・相続税評価額は高いが、老朽化や立地の問題で売却しにくい不動産
・賃貸用マンションとして収益性は高いが、相続人の誰も管理を引き継ぎたくない物件
・親世代が長年住んできた自宅で、売却は現実的ではないが評価額は高い土地
こうした不動産をどう分けるかは、税額だけでなく「誰がどの財産を持つのが自然か」という視点も重要になります。同じ評価額であっても、収益性や換金性、維持コスト等が各資産ごとに異なるため、「法定相続分通りに分ければ公平」というわけではないのが現実です。
「税金」「今後の運用」「家族の希望」のバランスを取りながら、現実的な分割案を一緒に考えていくことが大切です。
一次相続と二次相続をトータルで考える
トータルの税負担をシミュレーションする
相続税の負担は、「今回の相続」だけを見て判断してしまいがちですが、富裕層〜中堅所得層のご家庭では、一次相続と二次相続を合計した税負担まで含めて考えることが重要です。
・配偶者に多く相続させることで、一次相続の税額は抑えられる
・しかし、その分、配偶者死亡時の二次相続における課税対象が大きくなる
・子ども世代に早めに資産を移し、全体として税負担を平準化する選択肢もある
どのパターンが最も有利かは、家族構成・年齢・資産の種類・今後のライフプランによって異なります。一次相続と二次相続の税額シミュレーションを行い、複数のシナリオを比較検討することで、「今どのように分けるのが自分たちの家族にとって最適か」を具体的にイメージできるようになります。

相続税申告までのスケジュール感と時間の使い方
「10か月」は思っている以上に短い
相続税申告の期限は「相続開始(被相続人が亡くなったことを知った日)の翌日から10か月以内」と定められており、この期間は想像以上にあっという間です。
カレンダー上では一見余裕がありそうに見えますが、実務の現場では次のような理由で時間が不足しがちです。
・戸籍の収集や残高証明書の取得に時間がかかる
・不動産や法人株式の評価に手間がかかる
・相続人が遠方に住んでおり、話し合いのスケジュール調整が難しい
・本業の仕事が忙しく、相続だけに時間を割けない
気づいたときには「もう半年過ぎている」ということも少なくなく、期限直前に慌てて判断することで不利な選択をしてしまうリスクが高まります。特に、各種特例の適用を受けるためには、あらかじめ分割内容や書類の準備が必要なものも多く、「とりあえず申告だけ行う」といった対応では取り返しのつかない結果になりかねません。
早い段階から相談していただければ、評価方法や分割案の選択肢を冷静に比較し、ご家族にとって無理のない申告プランを組み立てることができます。
税務調査を見据えた「説明できる申告」の重要性
相続税申告は「出して終わり」ではない
相続税申告は、単に書類を作成して税務署に提出すれば完了というわけではありません。特に富裕層〜中堅所得層の相続では、一定の確率で税務調査が行われる可能性があると考えておく必要があります。税務署は、次のようなポイントを重点的に確認します。
・名義預金や名義株式が適切に申告されているか
・不動産や法人株式の評価方法に問題はないか
・生前贈与や資金移動の履歴に不自然な点がないか
・各種特例の適用要件が本当に満たされているか
こうした観点から、相続税の申告は「第三者に説明できる内容かどうか」を意識して組み立てることが非常に重要になります。評価の根拠や分割の考え方を説明できるよう、あらかじめ資料を整理しておくことが肝心です。
事前準備で税務調査の不安を減らす
税務調査が入るかどうかは納税者側でコントロールできませんが、事前準備によって調査が来たときの不安を大きく減らすことは十分に可能です。具体的には次のような準備が有効です。
・評価の根拠となる資料(不動産の図面・賃貸借契約書・決算書等)を整理しておく
・生前からの資金移動について、メモや記録を残しておく
・税理士と相談し、「質問されたときにどう説明するか」を整理しておく
税理士法人ヤマトでは、申告の段階から調査を想定した説明の組み立てを行い、必要に応じて調査対応にも同席いたします。
早期相談で増える「選択肢」と減る「不安」
自分で抱え込まないことが最大のリスク回避
ここまで見てきたように、相続税の申告が必要になりそうなご家庭ほど、手続きの量も判断ポイントも圧倒的に多くなる傾向があります。戸籍の収集、財産の洗い出し、不動産評価、贈与の整理、遺産分割協議、名義変更手続き、税務署への申告…。これらをすべて相続人だけで完璧にこなすのは、現実的には非常に大きな負担です。
一方で、税理士に相談することで、
・自分たちでできることと専門家に任せたほうがよいことの線引きが明確になる
・重要度の高い項目から優先的に着手できるため、期限に追われにくくなる
・一次相続・二次相続を含めた中長期的な資産戦略を検討しやすくなる
といったメリットが得られます。特に論点が多いご家庭ほど、早い段階から専門家を「伴走者」として巻き込むことで、自分で抱え込まずに進められる環境を整えやすくなります。遺言書や遺贈の有無、各相続人の希望、事業承継の方針など、考えるべき論点が多いケースほど、専門家のサポートを上手に利用することが重要です。
不安なまま時間だけが過ぎてしまう前に、現状を整理し、今できる最善の一手を一緒に考えていきましょう。
まとめ|相続税の申告が気になり始めたら、早めに専門家へ
相続税の申告が必要になりそうな富裕層〜中堅所得層のご家庭では、
・基礎控除だけでは申告の要否が判断しづらいこと
・相続人の確定と財産の洗い出しに時間と手間がかかること
・不動産や法人株式の評価、一次・二次相続のバランス調整が難しいこと
・期限内に申告して終わりではなく、税務調査を見据えた説明力も求められること
といった特徴があります。裏を返せば、早い段階で専門家に相談することで、選べる選択肢が大きく増え、不安を前もって小さくしていくことができます。
長年築いてきた大切な財産を、次の世代が安心して受け継ぎ、さらに活かしていけるようにするためには、「税金を減らすかどうか」だけでなく、家族全員が納得できるかどうかという視点も同じくらい重要です。相続税の申告は決して気楽な手続きではありませんが、適切な準備と伴走者がいれば、必要以上に恐れるものでもありません。
そのバトンを、できるだけ良い形で次の世代につなぐことが、私たち税理士法人ヤマトの役割です。
「相続税がかかりそうだ」「何から手をつければいいか分からない」という段階でも構いません。発見された遺言書の取り扱いや、遺産分割の進め方、名義変更を行う際の注意点など、状況に応じて丁寧にサポートいたします。
まずは現状を整理し、ご家族にとって最善の選択肢を一緒に考えていきましょう。
相続税の申告や手続きについて不安や疑問がある方は、ぜひお早めに税理士法人ヤマトへご相談ください。